
59 歩くことと発想力
皆さん、しっかり歩いていますか。
最近、僕もできるだけ歩くことを意識しています。
毎日の院内診療や車での訪問診療などで歩く機会が少なくなってしまった為に歩かなければと思っているのはもちろんですが、歩くことを続けることによってもっと歩きたいという気持ちが強くなっているのもあります。
“歩く”ことが健康にいいというのは言うまでもないことですが、他にも、いろいろと良いことがあります。僕にとってそのひとつが、「良いアイデアをひらめきやすくなる」ということです。
歩いている時に、解決策を思いついたり、考えがまとまったりした経験、ありませんか。
僕の場合は、今まではずっと自動車通勤をしていた時期がありました。
これは4、5年前に患者さんから自転車を乗ることを勧められ、クロスバイクを購入して自転車通勤を始めるようになりました。自宅からクリニックまで自転車で約30、40分ぐらいですが、慣れてしまうと非常に快適な乗り物です。
今の夏時期や真冬はつらい時もありますが、走行中に街並みや風やにおいを感じることができ爽快感を強く持てます。ただ、健康面で言えば、自転車だと一定の筋肉を中心に使うので筋肉運動が偏ってしまう傾向があります。これを解消するために週の数回は歩くことにしました。
さすがに自宅とクリニックの距離をすべて歩くのはかなりの時間を消費するので、電車を使いあとは歩くことにしています。それでも、往復で約1時間半は歩くことができます。“歩く”ことが健康に良いことは周知の事実です。
例えば、
1)心疾患や脳卒中など血管病変、認知症
2)骨粗鬆症や骨折
3)糖尿病、高血圧、脂質異常、肥満、メタボ)
4)うつ病
などの進行や予防の効果が示されていますが、本当に良いのはそれだけではないのです。
これらとともに良いと思われるのは、“歩く”と発想力が沸くということです。歩きながらですが、現況の自分への問題や課題を考えると、その本質的な原因がはっきりと浮き彫りになり、一本の解決策がクリアに見えてくることがあります。まるで、今、自分がまっすぐに歩いているのでまっすぐな答えが現れるかのような感覚です。そう思ったときは立ち止まりスマホのメモに残すようにしています。
もし、その答えが出ないときは、もう一度、最初から頭の中に問題をプレゼンテーションするようにしています。
すごろくで振り出しに戻るような感覚です。“えーとまずこの問題の最初はこんな状況から始まり、それがこのように展開して問題になったのだ。では、その展開は正しいのだろうか。別のこの考え方はどうだろうか。最後に、そうか、これでいこう・・・”と感じで続いていけば一つの問題が終了です。
僕の場合ですが、この答が得られるためには、できるだけ自然が多いところを歩くことが重要です。繁華街や町の商店街の中ではなかなかこの発想がわきません。屋外ではありますが外部の喧騒とシャットダウンできる環境の中歩くことが良い発想や考え方につながるように思います。実際、学問的にも歩くことと発想力の相関関係は知られています。
スタンフォード大学の研究で、歩くことが創造的なインスピレーションを促進することを発見しました。
座っている時と歩いている時の創造性のレベルを比較したところ、人の創造性は歩いている時に平均して60%増加することがわかりました。
例えば、Appleの創設者スティーブ・ジョブスは、歩きながら会議をすることでよく知られていましたし、フェイスブックのマーク・ザッカバーグは、立ちながら会議をするところが見られています。
なぜ創造性がアップするかのメカニズムはまだ不明ですが、仮説として、
1)歩行が気分を向上させ発散的思考を促されやすい
2)リラックスすることで、普段忘れていた情報やアイデアを思い出しやすくなる
などが挙げられています。
日本人の“歩く”ことを世界と比較するデータがあります。
スタンフォード大学の研究チームが2017年、スマートフォンのデータを使用し、世界規模の身体活動データを追跡しました。その結果、日本人の1日の平均歩数は111の国や地域中、第4位 / 平均6010歩。また、2023年に発表された都道府県別の歩数を見ると、1位は東京 / 平均6136歩となっており、“歩く”ことにおいて日本人は進んでいます。
また、日本人の平均歩数が多い理由として、道がちゃんと舗装されている、治安がいいなどが挙げあられます。さらに、東京はこれに加えて、公共交通機関の利便性が高く歩く機会も増えるということになります。
アメリカの保険会社が発表した“世界でもっとも歩きやすい都市ランキング”でも、東京は第6位でまあまあ世界に誇れますね。厚生労働省が推奨する1日の歩数は8000~1万歩だそうです。
歩く速度は人によって違いますが、一般的な早歩きの速度が5~6km/時とすると、約1時間(50~60分)で8,000歩に到達する計算です。もちろん、運動から遠ざかっている、体力に自信がないなどで、“8,000歩なんて無理”という人もいるでしょう。その場合は、まず1日4,000歩(3km前後)を目標にして、少しずつ距離を延ばしていくのもよいです。
4,000歩なら早歩きで30分程度。10分ずつ3回に分けて歩くなどの“こま切れウォーキング”でもOKです。
そして、健康面と同程度に、歩くことは自身の問題解決につながり生活や精神面の向上につながることも多いと思います。
あと、歩きながら考えていると知らない間に目的地についてしまっているのも得する一つです。
僕にとっても“歩く”と“自転車”と二つの良い選択があり通勤を楽しむツールとなっています。
令和7年7月:いしづかクリニック
院長 石塚 俊二